ワークショップにおける不安と緊張について

 

 

 

東 海 林  義 孝

 

 

 

目           次

 

 

はじめに---------------------------------------------------------------------------------------------

1 情報を与える-----------------------------------------------------------------------------------

〔1〕         ワークショップの枠組み---------------------------------------------------------------

〔2〕         ワークショップの内容------------------------------------------------------------------

〔3〕         参加者について-------------------------------------------------------------------------

2 不安・緊張を表出させ、それに応じた策を講じる----------------------------------------

〔1〕         不安・緊張を表出させる--------------------------------------------------------------

〔2〕         不安・緊張に応じた策を講じる------------------------------------------------------

@     知らない人がいる--------------------------------------------------------------------

A     たくさんの人がいる-------------------------------------------------------------------

B     人前で演じるなんて、できない-----------------------------------------------------

C     間違ったらどうしよう(うまく演じられない)---------------------------------------

D     分からないことがある--------------------------------------------------------------10

E     自分は場違いである---------------------------------------------------------------11

F     やりたくないことをさせられるの?-----------------------------------------------12

G     特別な関係の人がいる-----------------------------------------------------------13

〔3〕         緊張をほぐす(リラックス)----------------------------------------------------------14

〔4〕         選ぶ・選ばれる-----------------------------------------------------------------------14

3 成功体験を重ねる---------------------------------------------------------------------------17 〔1〕 少しずつ---------------------------------------------------------------------------------17 〔2〕 できたことに焦点を当てる-----------------------------------------------------------18  〔3〕 認める(肯定する)---------------------------------------------------------------------19

4 遅れて来た場合、早く帰る場合-----------------------------------------------------------20

〔1〕         遅れて来た場合----------------------------------------------------------------------22

@     遅刻した人の不安を解消する----------------------------------------------------22

A     迎える側の不安を解消する-------------------------------------------------------22

B     遅刻した人のウォーミングアップ-------------------------------------------------23

〔2〕         早く帰る場合--------------------------------------------------------------------------23

 

 

 

 

はじめに

 

 この論文では、ワークショップにおける参加者の不安・緊張をどのように解消するかについて、不安・緊張の原因に応じて、検証するものである。

 ワークショップの構成は、自己紹介などから始まりウォーミングアップを行い、ストーリーへ徐々に移行していくパターンが多いと思われるが、そのウォーミングアップを進めるうえで、どのような考え方が参加者(特に始めての参加者)の不安・緊張を解消するために有効かを検証するものである。

その基となるものは、私が過去に参加したスクール、ワークショップの体験である。

そのワークショップにおけるリーダーがどのように参加者の不安・緊張を解消したかをまとめたものである。

 もちろん、不安・緊張は、個々の人によって異なり、グループの構成員、ワークショップの目的等によっても異なる。そして、ひとつのワークショップの中でも、始めたときといくつかエクササイズを行ったあとでは、グループの状態も変わってくる。

 よって、ある不安について特定のエクササイズが有効であるということはありえず、あるときにある不安に対して有効であったエクササイズが、別の機会には逆効果ということもあるであろう。

 しかしながら、どんな「考え方」でエクササイズを選択し、そのエクササイズがどのように有効であったのか、どんな要素が不安を解消したのか、を考察することは、今後の活動に役立つものと思う。

また、言うまでもなく、ウォーミングアップは、不安・緊張の解消だけを目的とするものではない。ウォーミングアップはワークショップの目的を達成するためのものであり、よって、「ウォーミングアップ本来の目的」に「不安・緊張」を加味して、ウォーミングアップは組み立てられるものである。

さらに、ここで述べることはワークショップにおけるウォーミングアップに重きをおいているが、最も大切なことは、その不安・緊張を抱く人からリーダーは尊敬されることであり、そのようなリーダーになるべく努力しなければならい、ということはいうまでもない。

なお、必要に応じて、過去に私が参加したワークショップでの体験を「例」として載せた。


1 情報を与える

  参加者は、ワークショップに参加するに当たって、知っておきたいことがある。

  たとえば、ワークショップが何時から始まり、何時に終わるのか、どんな人が参加しているか、ワークショップではどんなことをやるのか、などといったことである。

  これらの情報は、参加者が質問するまでもなく、あらかじめ積極的に与えることが大切である。この情報によって、参加者はワークショップの始まりと終わり、概要などを知り、あるいは確認し、安心してワークショップに入っていけるのである。

  これらの情報を大きく分類すると次の3つになる。

〔1〕  ワークショップの枠組み

〔2〕  ワークショップの内容

〔3〕  参加者について

これらの情報は、早い時期に与えるのが望ましい。これらの情報を早い時期に与える

 ことにより、参加者が疑問に思っている時間を短くすることができ、ワークショップに集中することができる。

ただし、宿泊の部屋割り等の情報提供については、あまり早い時期では忘れることもあるので、部屋にチェックインできる時間に行うことが一般的である。

〔1〕      ワークショップの枠組みについての情報

ワークショップの冒頭にインフォメーションされることが一般的であり、その内

容はおおよそ次のとおり。

    ワークショップは何時に始まり、何時に終わるか?

    休憩時間はあるか?

    昼食の時間は?外食であれば、どこにどんな店があるのか?

    会場を使用するうえでの注意事項は?

    主催者、リーダーの紹介

    スタッフはいるのか?

〔宿泊を伴う場合〕

    自分がどの部屋に泊まるのか?鍵はいつもらえるか?いつ部屋に入ることができるか?

    夕食の時間は?外食であれば、どこにどんな店があるのか?

    入浴の時間と場所は?

    宿泊の際の注意事項は?

    夜、宴会はあるか?

    翌日の朝食は?

    チェックアウトは?

    翌日のワークショップの時間割は?

    帰りの交通機関は? 

〔2〕      ワークショップの内容についての情報

ワークショップのなかで、何をどのように進めていくか、であり、次のとおりで

ある。これらの情報はワークショップの冒頭に説明することが多いが、ワークショップの目的、参加者によっては省略することも多い。

      ワークショップの目的

例 1》 「ワークショップの目的」

     ワークショップの概要=1日(10001530)、参加者約10名。

     初めてプレイバックのワークショップに参加した人から、エンディングで「何が目的か、分からないと楽しめない。」というコメントがあった。

     こういう人にとっては、何が目的かを説明するのも有効であると言える。

 

例 2》 「ゲームの目的」

     ワークショップの概要=1日(10001700)、参加者約15名。

     初めてプレイバックのワークショップに参加した人が5人いた。

     「ピンポンパン」というゲームを始める前に、リーダーは次のようにコメントした。

     「このゲームは、楽しむことが目的です。人を笑わせた人がえらいんです。」

     ゲームは楽しく進行し、ゲームを失敗して、笑われても、気にする人はいなかった。

 

      ワークショップの進め方

例 3》 「グループ分け」

     ワークショップの概要=1泊2日、参加者約30名。

     参加者が30名と多かったため、1日目の夜と2日目の午前中は2つの会場に分かれてワークショップを行うこととなった。1日目の夕食休憩前、参加者を「初心者グループ」と「中級者グループ」とに分けた。

     リーダーから2つのグループに分ける旨の説明があり、そのうえで参加者は自分の意思でグループを選択した。

     休憩が終了し、ワークショップが再開したとき、休憩前に決定したグループメンバーとは異なるグループメンバーとなっていた。

     後でリーダーに確認したところ、次のとおり説明した。

     一部の参加者において、どのような基準で2つのグループに分けたか、それぞれのグループがどんな内容のワークショップを行うかの情報が正確に伝わっていないと判断した。そこで、彼らにそれぞれのグループがどのような内容でワークショップを進めるかを再度説明し、彼らが十分に「グループ分け」を理解した後、あらためてグループを選択させた。

     その結果、初めに選んだグループとは異なるグループを選択した人がいた。

 

      質問タイムの有無

      プレイバックとは、動く彫刻とは

例 4》 「動く彫刻」

     ワークショップの概要=1泊2日、参加者約20名。

     ワークショップの冒頭、自己紹介で本名・愛称・ワークショップでやりたいことを発表した。

     ある参加者の「動く彫刻をたくさんやりたい」という発言を受け、リーダーは次のようにコメントした。

    「初めて参加した人は動く彫刻を知らないと思いますが、おいおいやっていきますので、心配しなくていいです。」

 

〔3〕      ワークショップの参加者についての情報

ワークショップにどんな人が参加しているのか、についての情報であり、ワーク

   ショップの早い時期に共有するが、ワークショップの目的、長さ、参加者の数などによって、どのくらい共有するかが異なってくる。

      名前(愛称)

      プレイバックに関する情報(経験、活動内容、所属等)

      プレイバック以外の情報(住所、職業、年齢等)

      プレイバックを進めるうえで必要な情報(体調、気分等)

なお、リーダーはワークショップを進めるうえで、エクササイズの選択の幅を制限する情報は早い時期に得ておく必要がある。例えば足をけがしていて、走ることや、ジャンプすることができないということも考えられる。

例 5》 「自己紹介」

     ワークショップの概要=1泊2日、参加者約20名。

     自己紹介で、「愛称」と「みんなに伝えておきたいこと」を述べることとなった。

     ある参加者が「足をけがしているので、走ることができない」と言い、リーダーはその後、その人に配慮しながらワークショップを進めた。

 


2 不安・緊張を表出させ、それに応じた策を講じる

  ここでは、まず、不安・緊張を表出させること、そして、その後どのように対応するかを述べる。

  また、緊張については、人が集まったり、初めてのことを行うときに、何がしかの緊張を伴うものであり、一般的な緊張の緩和・解消の方法を説明する。

  さらに、小グループをつくったり、ペアをつくるときに、不安・緊張を伴うことがあるのでそのことについて若干触れておく。

 

〔1〕      不安・緊張を表出させる

ジョナサンは「不安は、表出することで手ばなせることがある」と言っている。

不安・緊張を表出させることで、手ばなせることもあるし、手ばなせないまでも、

   どんな不安なのか、どんな緊張なのが分かることによって、その内容に応じたウォーミングアップが可能になる。

    不安には2種類あり、ワークショップを進めていくうえで感じるものと、ワークショップに参加すること自体が大変であるために感じるものとがある。特にワークショップが宿泊を伴う長期の場合、そのために仕事を休んだり、家庭を空けることになり、そのことが不安の種となる。

    不安・緊張を表出させることは、ワークショップの早い時期に行うことが多く、その方法は次のようなものがある。

      自己紹介

自己紹介の中で、愛称のほかに、「このワークショップに参加するにあたって、期

待すること、不安なこと」を発表する。

      不安を出し合う

ワークショップの早い時期に「ワークショップを進めるうえで、不安に思っていること」を出し合う。

      「マッピング」

      「アイデンティティサークル」

      「イッツトゥルー」

 

〔2〕      不安・緊張に応じた策を講じる

どんな不安・緊張を抱えているかが分かったら、それに応じた考え方でウォーミングアップを進める。とはいっても、ウォーミングアップの組み立ては、ここに述べる考え方のみで決めるのではなく、あくまでもウォーミングアップ本来の目的を主とし、そのうえで不安・緊張を緩和・解消する考え方を加味することになる。

不安・緊張の原因を大きく次の8つに分類したが、その原因は単独であることよりもいくつかが重なっていることが多い。したがって、ウォーミングアップをどのように進めるかは、これらの要素を複合的に考慮する必要がある。

    もちろん、不安・緊張の原因が分かったからといって、常にそれに応じた策を講じなければならない、ということではない。不安・緊張の度合いによっても異なってくるだろうし、場合によっては、時間の経過とともに不安・緊張が緩和されることもあるだろうし、他の参加者のサポートによって緩和されることもある。

    リーダーは、そのときどきで、どのくらい不安・緊張に焦点をあてるかを判断する必要がある。

@      知らない人がいる

自分の知らない人がいると、多かれ少なかれ緊張したり、不安になったりするも

のである。

 また、「知らない人がたくさんいる」というように次のAと関わってくることも多いが、「知らない人がいる」ことと「たくさんの人がいる」ことは、別の要素なので分けて説明する。

 すなわち、「知らない人がいる」のであれば、「知り合って親しくなる」というエクササイズが有効であり、そのことによって徐々に知り合うことができ、その結果、「知らない人がいる」ことによる緊張・不安は緩和され、解消される。

 さて、「知り合って親しくなる」にも、名前(愛称)を覚える→どんな人かを知る→親しくなる(身体接触等)の段階があり、徐々に進めていくことが大切である。

なお、名前を覚えることについて、初めてワークショップに参加する人はかなりグループメンバーを知らないことが多いと思うが、中には、全員の名前(愛称)を覚えなければならないと思い、ストレスを感じる人がいるかもしれない。

リーダーは、このような人に配慮する必要がある。

例 6》 「愛称を覚える」

     ワークショップの概要=1日(9301600)、参加者約25名。

     このワークショップは心理劇学会の主催で、サイコドラマの経験はあるが、プレイバックは初めてという人が半数近くいた。

     全員輪になって、1人ずつ名前・愛称を自己紹介したが、その中の1人だけが全員の名前・愛称をノートにメモしていた。

     リーダーは、全員の自己紹介が終わった後、全員が輪の別の席へ移動し、隣の人の愛称を確認させ、また異動し、愛称を確認させた。

     このことによって、ノートにメモしていた人は、そんなにまでして愛称を覚えなくていいのだと思ったであろう。また、他の人の中には名前をメモしていないのでどうしようかと不安に思った人もいたと思うが、この「別の席へ移動」によって、「愛称を覚えるのは全員でなく、始めは数人でいいのだ、そして他の人もそれくらい覚えるところから始まる」のだ、と安心したことであろう。

 

なお、身体接触を伴うエクササイズは、極度に嫌う人もいるので配慮する必要がある。

例 7》 「身体接触」

     ワークショップの概要=1日(10001630)、参加者約10名。

     エンディングで一人ずつ感想を述べたが、ある参加者が「人と人というゲームのときに、体に触られるのがいやだった。」と言った。

 

例 8》 「身体接触」

     ワークショップの概要=1泊2日、参加者約25名。

     ワークショップ開始後1時間半の早い時期に、身体接触を伴う「人と人」というゲームをすることとなった。そのとき、リーダーは「体に触られるのがいやだ、という人はいますか?」と確認した。

 

A      たくさんの人がいる

    たくさんの参加者がいると、緊張したり、不安になったりする人がいる。なお、「たくさん」が何人くらいなのかは、その人の主観によるので、一概には言えない。

    「たくさんの人がいる」ので緊張するということには、「小グループになる」エクササイズが有効である。

小グループとは、ペアでもいいし、3人でも、4人でも、元のグループより少人数ということである。小グループで親しくなり居心地がよくなると、全体のグループに戻っても居心地がよいものである。

 

B      人前で演じるなんて、できない

    たとえば、「人前で演じるなんて、経験もないし、恥ずかしいし、それに難しそうでできない。」と思う人がいる。プレイバックシアターのワークショップに初めて参加する人であれば、かなりの人がこのように感じるであろう。特に、ストーリーを観て「即興で、打ち合わせなく」という点に困難さを感じることが多い。

 この「自分にはできない」に対しては、「できた」を積み重ねることが有効である。

    この考え方は、演技することが不安といえないまでも「おっくう」と感じる人や、新しい手法(たとえば、コーラス)などにチャレンジするときにも有効であるので、項を別にして、3「成功体験を重ねる」で説明する。

 

C      間違ったらどうしよう(うまく演じられない)

    これは「B人前で演じるなんて、できない」から1歩進んだもので、人前で演じることは不安に思わないが、「うまく演じられない、あるいは、テラーが納得する演技ができない」という不安である。

    これに対しては、「プレイバックシアターに完全はない、不完全でいい」ということを説明することが有効である。

    「うまくできない」と感じる人は、自分の中にあるべき基準を設定し、その基準に達しないだろうと予測しているのである。

しかし、プレイバックシアターはこのような基準を求めるものでなく、そのときそのときにできることをやることが大切であるので、そのことを説明するのがよい。

例 9》 「プレイバックシアターとは」

     ワークショップの概要=2泊3日、参加者約25名。

    リーダーは、動く彫刻を練習しているときに、つぎのようにコメントした。

    「プレイバックシアターは、不完全なものです。

     世の中では、完全を求めるものが多い中で、プレイバックシアターは珍しい。

     プレイバックシアターは不完全ですが、意味のあるものです。

     禅も世の中には完全はないという考え方で、プレイバックシアターは禅に近いものがあるかもしれません。」

 

  D 分からないことがある

    初めてプレイバックシアターのワークショップに参加する人にとっては、分からないことだらけであろう。

    この「分からない」には、分かるように説明することが有効である。

    しかし、この「分からない」には、2種類ある。

    ひとつは、たとえば「サウンド&ムーブメントって、何ですか?」とか「ストーリーにおけるミュージシャンの役割は何ですか?」というように答えのあるもの。

    もうひとつは、「今、語りたいストーリーが2つあるが、どちらを語ったらいいでしょうか?」とか、「アクターを演じた後、役をデロールできないときはどうしたらいいか?」というように、その本人が答えを見つけなければならないもので、他の人が答えることができないもの。あるいは人によって答えが異なり、他の人の答えが必ずしもその人の答えとならない、そういう問いに対する「分からない」である。

    まず、答えのある「分からない」については、できるだけ早く答えるのが望ましい。早く答えることによって、疑問に感じている時間を短くすることができる。

例 10》 「ロールプレイって?」

     ワークショップの概要=1日(10001700)、参加者約15名。

     自己紹介のなかで、「ロールプレイって、何?」と言う人がいた。

     リーダーは、これを受けて、ワークショップが始まって1時間くらいのときに実際にロールプレイを行った。

 

本人が答えを出すべき「分からない」については、「分からない」と発言することが大切である。

そして、その問いかけに対してリーダーは、「難しい」と答えたり、自らの経験を語ったり、何もコメントしなかったり、いろいろな対応があると思う。そんなときリーダーがどんな対応をするかは、まさにリーダー本人が答えを見つけなければならないのである。

例 11》 「役のデロール」

     ワークショップの概要=2泊3日、参加者約25名。

ストーリーの後、参加者から「アクターをやって、役をデロールできないときはどうしたらいいか?」と質問があった。

リーダーは、次のとおりコメントした。

「たとえばテラーズアクターがテラーの役になりきって、その思いを引きずることがあります。

 ベテランのアクターはデロールを訓練していますが、それでもデロールできないことがあります。

 それは、テラーに対して、素晴らしいプレゼントをしたということです。」

 

  E 自分は場違いである(疎外感)

    自分が他のグループメンバーに比べ異質であり、グループに受け入れられないのではないか、グループに入っていけないのではないかという不安である。

 年齢、プレイバックシアターの経験、社会的地位などの差によって感じることがある。

この不安に対しては、マッピングなどでその「差」を明確にし、不安を表出させることが有効である。

この「差」を明確にすることによって、グループメンバーも本人も、この「差」を埋めようとすることができ、お互い歩み寄ることができるのである。

しかし、もしこの「差」が明確にされなければ、グループメンバーはこの「差」に意識がいかず、「差」を埋めることは難しくなる。

例 12》 「若い人に付いていけない」

     ワークショップの概要=1日(10001630)、参加者約10名。

     65歳の参加者(ワークショップ初参加)がいたが、他の参加者は30歳台、40歳台であった。ワークショップは順調に進み、彼も他の人と同じようにワークショップを楽しんでいるようだった。

     しかし、ワークショップ後の飲み会で、「自分よりかなり若い人が多く、みんなといっしょにやるのは精神的にきつかった。」と彼は感想を述べた。

 

例 13》 「若い参加者」

ワークショップの概要=1日(9301600)、参加者約25名。

     20歳台の参加者がいて、彼女以外はほとんど30歳以上であった。

     ワークショップ開始後1時間30分経ったところで、初めて参加した人に感想を求めたところ、彼女は「はじめ、自分は場違いと思ったが、他の人と同じように扱ってくれた。」と感想を述べた。

     後で個人的に彼女に詳しい説明を求めたところ、「はじめ、年齢的にも、社会的地位という点においても、自分は若輩者で、とても他の人と同じように扱ってもらえると思わなかった。でも、愛称で呼び合うこともよかったし、他の人と同じように扱ってもらえてよかった。」と言った。

 

    例12も例13も「差」を明確にしていないが、例12では不安が解消されず、例13では不安が解消されている。

    このように、ワークショップにおける参加者の不安は、それに着目して対策を講じなければならないというわけでもなく、対策を講じる必要がないというわけでもない。そのケース、ケースによってそれに相応しい対応が求められ、とても難しいといえる。

    私は、例12、例13、いずれのワークショップにおいても、そのような「差」を感じてグループに入れないと感じている人がいるとは考えもしなかった。例12の彼も例13の彼女もスムーズにワークショップに参加していたし、他のワークショップでは、彼より年配の人や彼女より若い人がそのような不安を抱かずに参加していたからだ。

    それだけに、この「何らかの差」を感じてグループに入れないという不安は、特に配慮する必要があると言える。そして、どんなことが原因で疎外感を感じるか、についてはあくまでも当人が感じることであるから、リーダーは広い視野と深い注意力が求められるものである。

 

  F やりたくないことをさせられるの?

    プレイバックシアターは本人の自発性を重んじるもので、「やりたくない」ことはやらなくてよいものである。よって、その旨をコメントすればいいかというと、そうとも言い切れない。

    というのも、「やりたくない」には2種類ある。

    ひとつは、どうしてもいやな場合。たとえば、ストーリーでアクターを観客から選ぶとき、リーダーは「今、演じることができないと思う人は、そのように言ってください。」とコメントするであろう。この場合は、適切なコメントである。

    もうひとつは、参加者が消極的になっている場合である。何らかの理由によって、「おっくうさ」を感じていたり、ちょっと「勇気」が足りなかったりで、「やりたくない」という場合である。しかし、自らワークショップに参加しているのであるから、ある程度の「やる気」はあるはずで、こういうときには「やりたくないことはやらなくてよい」と言うのではなく、「やる気」を阻害している要因を取り除くことが大切である。

例 14》 「自発性」

ワークショップの概要=1泊2日、参加者約25名。

     ワークショップの参加者の3分の1以上は、ほとんどプレイバックシアターの経験がなかった。

     リーダーは、ワークショップの冒頭で次のようにコメントした。

「自発性には、2種類あります。

     よく考えてから行動する場合と、考えずにまず行動する場合と。

     私たちは、普段の生活の中で、よく考えてから行動しています。考えずにまず行動することは、とても難しいことです。

でも、今日は「まず行動する」にチャレンジしてみてください。」

 

例 15》 「リスクを負う」

ワークショップの概要=6泊7日、参加者12名。

     参加者はプレイバックシアターの経験が豊富で、半数以上がリーダーの経験があった。

     リーダーは、ワークショップの早い時期に「どのくらいリスクを負うかについての今の気持ち」をマッピングにとった。

     そして、今はあまりリスクを負いたくないという人に「リスクを負う、負わないということは、良い、悪いということではありません。「今はあまりリスクを負いたくないという人」は、ゆっくりウォーミングアップをしていくということです。」と言った。

     さらに、次のようにコメントした。

「リスクをとるということは、人間的に成長することです。

     しかし、それ以上に自分に誠実に正直になることも大切です。

     そのときだ!と思うときに、リスクを負ってください。」

 

  G 特別な関係の人がいる

    たとえば親子で参加している場合、兄弟姉妹で参加している場合などである。

    苗字の同じ人たちがいて、どうも親子のようだが、果たしてそのことを聞いていいのか、もし親子でなかったら失礼だし、親子だとしたら当人たちと話をするときそれなりに配慮が必要になるし、どちらなのかと不安になる人もいるだろう。

    また、ある人は、当人たちが親子であることを知っていても、そのことを他のメンバーに話していいのか、と悩む人もいるかもしれない。

    リーダーは、あらかじめこのような「特別な関係」を知っていることが多いと思うが、ワークショップの早い段階でこのことをメンバーに知らせることが望ましい。

 

〔3〕      緊張をほぐす(リラックス)

    ここでは、一般的な緊張のほぐし方について述べる。

    これまでは、緊張の原因となっていることを排除することについて述べてきたが、ここでは、その原因に触れずに、緊張を緩和・解消する方法について述べる。

緊張している状態は、呼吸が浅く、姿勢も悪くなっている。そこで、姿勢を正し、深呼吸するだけでもかなり効果がある。

そして、次のようなことがリラックスさせるために有効である。

      声を出す、歌をうたう

      笑う

      体を動かす

      具体的なことに集中させる

  プレイバックシアターのワークショップで行う「ゲーム」の多くは、「声を出す」、「笑う」、「体を動かす」の3つを含むもので、リラックスのためにとても有効である。

  なお、「ゲーム」とは、ある一定のルールのもとでの緊張と緊張からの解放(多くの場合、笑いになる)を楽しむものである。よって、ゲームが難しいと緊張が大きくなり楽しめないし、ゲームが簡単すぎても緊張が小さく、楽しめないこととなる。ゲームには、適度な緊張が必要となる。

  また、「歌をうたう」ことは、交感神経・副交感神経の両方を高揚させる効果がある。通常は、交感神経が活発になると、副交感神経が落ち着き(=興奮する)、副交感神経が活発になると、交感神経が落ち着く(=リラックスする)。よって、「歌をうたう」ことは、ウォーミングアップにもクールダウンにも有効である。

 

〔4〕 選ぶ・選ばれる

    たとえば、2人一組のペアになる場合(小グループになるときも同じ)、リーダーにはいろんな選択肢がある。

    代表的なものととしては次のとおりである。

      近くの人と

      服の色が同じ人と(ズボン、靴等)

      あるゲームの最後のペアを利用して

ペアになる基準によって、参加者が緊張し、不安になることもある。以下の例のように、ペアの相手選んでも相手から選ばれないという可能性がある選択方法については、特に配慮する必要がある。

例 16》 「ペアになりたい人とペアに」

ワークショップの概要=1泊2日、参加者約35名。

     初めてワークショップに参加する人が約3分の1いた。

    まず、近くの人とペアになり、次に別の人とペアをつくるときにリーダーは次のように指示した。

    「この人とペアになりたいという人とペアになってください。」