「プレイバックシアターによる子育て支援」
2006/09/30 高橋 江利子
目 次
はじめに
1.子育て支援の現状
@
子育て支援活動の現状
A 母親を支援するための活動の現状
2.子育て中の母親のニーズと問題点
@
保育園、学童保育など施設、環境面などのインフラ整備
A
精神的ケアの充実
3.子育て支援、現状の問題点
@
社会的背景による問題
A 支援者側の問題
B 今、求められる子育て支援
4.プレイバックシアターによる子育て支援の有効性
@子育て体験の共有化
A自己肯定感をもった自分らしい子育てへ
Bグループの一体感、子育て仲間のネットワーク化
Cひとりの「個」として存在する
5.実践による検証
A.アンケート記述による検証
B.効果測定による検証
6.これからの課題
おわりに
添付資料
@
A子育て支援公演に関するアンケート書式
はじめに
4年前、娘を出産し、初めて子育てを経験した。娘が1歳を過ぎるまでは、外出もままならず深い孤独感、焦燥感、迷い、不安の中で深夜、仕事を終え帰宅する夫の帰りを待つ日々を過ごしていた。
子育て仲間を作るために、勇気をだして地域の子育てサークルに出掛けてみても、そこでは、ただ子どもを遊ばせながら、気の合う母親同士が子どもの当たり障りのないこと、世間話をしているだけであった。子育てのストレスを発散できるような、楽しめるプログラムもなく、母親たちの関係もその場限りのもので、何か物足りなさを感じた。
世の中では、密室育児による虐待問題、育児放棄などが取り上げられている。同時に子育て支援についての話題も毎日のようにテレビ、新聞で目にする。
母親が、楽しく、肯定感を持って子育てができるようになるために、今どのような支援が必要なのか。
プレイバックシアターの手法を用いて、より母親のニーズに合う既存の活動にはない創造的な子育て支援ができるのではないだろうか。
1.子育て支援の現状
@
子育て支援活動の現状
昨今、子育て支援が社会全体の関心事になっている。
政府が少子化、人口減の危機感から、次々と対策を打ち出しているためである(「少子化対策の流れ」年表参照)。
政府がまとめた、「少子化社会白書
」少子化の原因としては、
a.
仕事と子育てを両立できる環境づくりが遅れていること
b.
男女とも高学歴化して、晩婚化、未婚化を招いていること
c.
結婚や子どもの存在に関する価値観が変化していること
d.
子育てに対する負担感が増大していることなどが、挙げられている。
行政も地域に適した、その地域ならではの、子育て支援策を制定している。例えば、
企業は、子どもを産みやすい環境づくり、子育てと仕事を両立できるよう、支援策を発表している。
日産自動車は、妊娠の判明時点から産前休暇を認める「母性保護休職制度」を、サントリーは、小学3年生までを対象にした「短時間・時差勤務制度」をそれぞれ4月より導入した。
また、社員専用の託児所を設ける企業も増えている。さらには、男性の育児参加を促すべく、育児休業の推進を行っている。
地域では、子育てを終えた女性が支援サークルを作ったり、市民が子育て支援を目的としたNPO団体を立ち上げたりして、
合計特殊出生率が1966年の「ひのえうま」を下回った1990年の「1.57ショック」以降、厚生労働省が中心になって進めてきた対策が、以下、年表の通りである。
<少子化対策の流れ> 『2004年版少子化社会白書』、『朝日新聞』2006年4月2日より抜粋
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1990年 1.57ショック |
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1992年
児童手当第1子から支給開始(3歳まで) |
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育児休業法施行 |
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1994年 エンゼルプラン策定 |
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1995年 育児休業給付の支給開始 |
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1999年 新エンゼルプラン策定 |
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2000年
児童手当の対象拡大(就学前まで) |
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2001年
保育所待機児童0作戦 |
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2003年 少子化対策基本法施行 |
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2004年 児童手当の対象拡大(小3まで) |
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少子化社会対策大網 |
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2005年 子ども・子育て応援プラン |
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次世代育成支援対策推進法施行 |
2004年ごろまでは、保育施設の拡充に重点を置いた対策だったが、2005年からは、「働き方の見直し」に重点を置き、企業や地域など広く社会全体で支援に取り組むよう展開された。
結果、急速に進む少子化、人口減への危機感から、政府の施策が打ち出されたのに呼応して各地で子育て支援が盛んになった。
A母親を支援するための活動の現状
活発化する支援策の中で、母親を支援するためのものは、どのようなものがあるのだろうか。
出産直後には、産後の身の回りの世話や新生児の世話をするためのものとして、保育ママとして登録されている子育て経験者が、子どもを預かる派遣型保育サービス、各家庭に訪問し、母親を介助するサービスを行政が実施している。
また、母乳や人工乳の問題で悩みを抱えている母親の相談、指導も行っている。
私自身は、出産直後に地域の子育て支援課、保健師から、身近に子育てを手伝ってくれる人の有無、困っていること、悩んでいることがないかなど、電話をもらった。
再就職を考える母親のためには、出産や子育てで一度仕事を離れ、再就職を希望する女性を応援する「マザーズハローワーク」(厚生労働省管轄)が2006年4月1日に
2.子育て中の母親の問題点とニーズ
昔は、親の近隣関係も強かったため、忙しいときには、子どもを近所に預けることが習慣であった。年長者から、若い母親に対しては、雑談、立ち話の中で子育てに関する知識を伝えていた。成長した子どもたちも、顔見知りの近所の大人たちの間で見守られながら、安全に遊ぶことができた。同居世帯も多かったので、たくさんの大人の視点をもって、自然と助け合いながら子育てを行っていた。
現在は、核家族化が進み、以前のように地域社会全体で子どもを育てる環境ではなくなった。
帰宅の遅い夫の帰りを待ちながら、母親が一人で子育てを背負っている。いわゆる密室育児である。その結果、乳幼児に対する虐待事件が増加している。
虐待される子どもは5歳以下が60.4%、虐待者 は実の母親が83%を占め(子どもの虐待防止センター報告書1997年より)、子育て期の母親に問題が多いことがわかる。子育ての知識、経験不足や孤立感、不安感から育児ノイローゼに陥り、虐待へと進むことが多い。最近では、子どもを殺してしまう事件も多く、度々報道されている。警察庁によると、児童虐待は年々増加。昨年1年間の被害児童は229人。7年前の8割増となった。今年上半期は128人で、上半期として記録をとり始めた2000年以降、最多となっている(『朝日新聞』2006年9月27日より)。
父親、男性の物理的、精神的不在も母親の孤立感を深めている。
長時間労働、加えて遠距離通勤、休日出勤、休みの日も日ごろの疲労のため子育てに参加しない父親が増えている。
6歳未満の子どもがいる共働き、専業主婦家庭とも、彼らは、平日21分程度、休日でも3、4時間しか家事、子育てをしておらず、妻に家事、子育てを大きく依存している(総務省「社会生活基本調査2001年」より)。
父親の育児参加、育児休業を政府、企業が推進しても、実際の現場では取得を申し出にくい環境にある。男性の44%は、取得したいと思っているにもかかわらず、(以下、ニッセイ基礎研究所調査参照)「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という昔ながらの考え方が根強く残っていて、上司や同僚の理解が得られにくかったり、代替要員の確保が難しかったり、査定などに影響したり、と育休取得へのハードルは、依然高い(以下、同調査結果参照)。
「育休を取得できない理由」 ニッセイ基礎研究所 調査2006年
6歳未満の子どもがいる20〜39歳の男性、複数回答あり
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@
自分以外に育児をする人がいた・・・57% |
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A
業務が繁忙・・・43% |
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B
職場に迷惑・・・41% |
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C
家計が苦しくなる・・・29% |
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D
マイナス評価につながる・・・27% |
近隣関係が希薄で、父親の育児参加も望めず、ひとりで育児を背負っている現代の母親にとっては、何かあったときに、また、ほんのわずかな自分の時間を確保するためにも、誰かに子どもを預かってもらいたいという要求がある。そのための施設、環境をより充実させていく必要がある。
自身の体験からいえば、月5,000円の児童手当支給も必要だが、母親と子どもに寄り添ってくれる人、居場所、気軽に預けられる施設があれば、もっと子育てが楽になると実感している。
母親のニーズ@ 保育園、学童保育など施設、環境面などのインフラ整備
特に働く母親のためにも、保育園、学童保育などの施設が必要不可欠である。そのような中で、早期保育、夜間保育、延長保育の充実、休日保育、産休明け保育の充実、入所時期の柔軟化、軽い病気のときにも預かってほしい、など様々なニーズがある。これに対しては、厚生労働省が、ファミリーサポート制度を設けている。一般市民から、子どもを預かりたいという人を募り、保育についての講習を受け、提供会員となる。子どもを預ける側も講習を受けて依頼会員として、登録をしておく。お互いがパートナー同士となり、パートナーから依頼があれば、保育園への送迎、病気の際の一時預かりなどをするものである。利用している母親の大半からは、「急な残業や子どもの病気のときにも、預かってもらえるので、安心して働くことができる」という声があがっている(
統計では、専業主婦のほうが、子育てに対する不安が強いといわれている。
フルタイムで働いている母親は、子育てストレスが40%。専業主婦は、70%である(
預かり保育委員会/文部科学省預かり保育調査最終報告書より 2001年 )。
また、国立社会保障・人口問題研究所の2002年調査では、専業主婦の子どもは平均、2.28人、出産後、妻も働いている共働きだと2.33人、現在も共働きより専業主婦の子どもが少ない傾向が続いている。
働く母親は、幼い子どもを預けて仕事に行くことに多少なりとも罪悪感は生じるものの、子どもと離れる経験が、子どもにも自分にも良いと肯定的に認識していて、精神的安定を保っている。彼女たちは、家事、仕事、子育てを両立することにストレスを感じている。一方、専業主婦の母親は、子どもはかわいいと思っても、子どもといるだけの生活、子育て一辺倒の生活に不安や不満、焦り、孤立感を抱いている。子育ての価値を認めているものの、まったく自分の時間ももてない、先の見通しもつかない閉ざされた状況に葛藤している。
そのような専業主婦の母親たちの状況を和らげるために、母と子どもの居場所作り、子育てサークルでの仲間作り、一時保育が要望として挙げられる。
各市区町村では、理由を問わず、保育園や幼稚園に通っていない、子どもを持つ親を対象に週3日ほどの制限を設け、保育園での一時預かりを行っている。
母親のニーズA 精神的ケアの充実
より強い子育てストレスを抱えている専業主婦、育休中の母親のための精神的ケアが、重要である。
厚生労働省は、2002年「つどいの広場事業」を実施した。主に0〜3歳をもつ子育て中の親が気軽につどい、打ち解けた雰囲気の中で語り合うことで、精神的な安心感、解決の糸口になる機会を提供することを目的としている。
具体的には、
(1)子育て親子の交流、集いの場を提供すること。
(2)子育てアドバイザーが、子育ての悩み相談に応じること。
(3)地域の子育て情報を、集まってきた親子に提供すること。
(4)子育て及び、子育て支援に関する講習を実施すること。
を事業内容としている。
各地で認められたNPO団体や市民団体が、その場を提供、運営している。また、団体同士が、つどい
の広場連絡協議会を作り相互交流を行っている。
3.子育て支援、現状の問題点
@社会的背景による問題
世の中には、「家事、子育ては、女性がするもの」という性別による役割分業意識が、まだまだ根強くある。いわゆる「三歳児神話」といわれる、「三歳までは、母の手で育てなければならない」、「子どもにとって母親は唯一絶対的な存在である」という昔からの規範が存在する。この言葉に縛られている母親、その周辺の人々がたくさんいる。
子育て支援公演やワークショップのときに、一時保育を行うと、よく目にする光景が、子どもが泣くと会場の母親に呼び出しが、かかることである。また、公演を行う際、主催者側から、離れられない親子がいるので、後部に一緒にいられる場所を作りたいと言われる。わずか、1時間半ほどの時間すら、子どもと離れることが、許されずできないのだろうか。支援者、母親とも、乳幼児から母親が離れることを積極的に受け入れておらず、その環境ができていなのが現状である。
A支援者側の問題
託児支援ならば、預かった子どもと向き合い、たっぷりと相手をしてあげる。そして、母親をひと時、育児から開放してあげる。それが求められていることなのに、支援者である保育スタッフの中には、子どもを預けた母親に自分の子育て経験から、育て方などについて、ついつい口をはさみ挙句の果てに説教をしてしまう、という人も少なくない。
保育スタッフが、母親がワークショップに参加している途中に、母親のところにいき、保育していた子どものことについて(性格や、身体の発達について)アドバイスする光景を目にしたこともある。
それは、母親のための時間を奪うだけでなく、子どもに対して精一杯な母親を不安にさせる言動であった。支援者側の責任者から、スタッフのそのような言動にとても困っているという話も耳にする。母親に心を添わせ、母親と共に、同じ目線に立って支援することが望まれていると頭では、理解していてもそれを実践するのがとても難しい。支援者側の問題点の1つである。
地域ボランティアで、子育て支援をしている人から「今の母親は、おいしいところだけを体験しに来る」、「いくつかのサークルをはしごして、楽しい行事だけに参加する」、「グループの運営、もっと簡単なところで当日の机を運ぶとか、準備など全く、手伝おうとしない」、「支援行事に対して無料というのは、甘やかしすぎ、参加費をいくらかでもとるべき」、「子育てのことを知らなすぎる」、「支援しすぎて、親を甘やかさないようにするのが難しい」など、今の母親のあり方に対する話をよく聞く。
また、地方の託児支援をしているスタッフからは、「最近は、理由を問わず、預かっているが、母親たちの預ける理由を聞くと、それでいいのかと疑問に思う」という声も聞いた。自らも子育てを体験し、困っている母親を助けようとしている支援者自身も、悩み、今の母親を多少なりとも非難している様子が伺える。
B今、求められる子育て支援
「最近の母親は社会性に欠ける」と批判し、「子育て支援は、親を甘やかしすぎる」と言う前に、母親たちをひとりの女性として、成長できるよう手助けしていくことが今、必要な支援のひとつである。
そのためにも、母親がひとりの時間を持てるような環境作り、周囲の理解を深めていく必要がある。
流行りの子育てサークルに参加すると、同じ年頃の子どもを持つ母親と談笑したり、子ども同士を遊ばせたり、ボランティアスタッフの人たちによる手遊びやゲーム、歌を歌ったりと、楽しい時間が流れる。ただ、何か物足りなさがある。確かに、子どものことを共有し、他人の子どもを見ると、安心できる。でも、「私」という自分の居場所がない。
「誰々ちゃんのお母さん」ではなく、「ひとりの大人」、「女性」としてそこにいたいという欲求がある。
お母さんたちとの談笑も世間話や子どもの話ばかりではなく、自分の思い、日ごろ感じていること、考えていることを共有する必要がある。「私」が確立され、子どもとは別の自分の人生に触れることで、笑顔で子どもと向き合え、肯定感をもった自分らしい子育てへの1歩になる。
子育て中の母親が、孤立して自分の世界をもてないでいる、閉塞感に駆られる中、母親がひとりの女性として生きたいと思うのは、当然の願いである。そのために母親が個人として過ごす場と機会を提供すること、子育てからひと時でも開放され、自分の時間を持ち、成長する機会を持てるよう支援することが必要である。
また、補足ではあるが、同時に子どもに対しても支援が必要である。親以外の人と触れ合うことで、多様な価値観を学び、母親から離れてのびのびと遊ぶことができ、様々な人と信頼関係を築いていくことは、子どもの成長を促す。
親とは違う視点で、子どもを見てもらうことは、母親にとっても重要なことで日々の子育てに生かすことができる。母親が、ひと時、子どもから離れることで、新鮮な気持ち、温かい気持ちで改めて子どもと接することができる。
4.プレイバックシアターによる子育て支援の有効性
母親や父親自身の成長のために、また、より良い支援をするために、プレイバックシアターを有効に使うことが、できないだろうか。
プレイバックシアターを用いれば、優れた精神的ケアができると考えられる。
効果として、以下が挙げられる。
@子育て体験の共有化
観ている人たちに、わかりやすく、直接的にアピールでき、他人の気持ちを肌感覚で自然に、深く共感させることができる。「子育ては辛い」と言っても、なかなか言葉では伝わりにくいこと、辛さ、不安、迷い、また子育ての楽しさ、喜びなどを共有でき、気持ちが安定する。特に父親と共有し、父親の育児参加、コミュニケーションにつなげることができる。
また、周囲の人や支援者が母親の状況を共有、理解することで、子育て支援の真の必要性、子育て中の母親に今、何が必要かに気付くことができる。
A自己肯定感をもった自分らしい子育てへ
現実を再現ドラマとして客観視できることから、新たな視点と気づきを得られ、態度変容が起こる。
マニュアルや氾濫する情報誌に惑わされることなく、自分らしい子育てをしていけば良いことに気付く。
Bグループの一体感、子育て仲間のネットワーク化
ウォームアップのゲーム手法(ワークショップ時)を用いて、お互いが知り合い、子ども心に帰り、楽しむことができる。
また、その人の人生に触れるようなストーリーを共有することで、見知らぬ人が集まった集団であるにもかかわらず、終わった後には、以前から知り合いであったような一体感が生じる。「つらいのは、私だけではない」、と孤立感から開放され、「私もがんばろう」と意欲が湧く。そして、当たり障りのない、世間話だけの関係ではなく、深く語り合える親密な関係の子育て仲間を作ることができる。
Cひとりの「個」として存在する
母親、妻という役割を離れ、ひとりの「個人」として、人生について、みつめ直し、存在することができる。
そして、自己の成長へとつながる。
5.実践による検証
A.アンケート記述による検証
過去、子育て支援をテーマにいくつかの、公演やワークショップを所属する「劇団プレイバッカーズ」で実施した。
そのときの、観客アンケートをもとに検証する。自由記述式アンケートの感想を4つの効果に基づき、主観的ではあるが、分類した。
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<実施公演&ワークショップ> |
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a.2004年1月24日 子育て支援サークル「マミーズネット」( |
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b.2005年1月22日 子育て支援サークル「マミーズネット」( |
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c.2005年2月27日 子育て支援サークル「マミーズネット」( |
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d.2005年10月23日男女共同参画センター横浜「フォーラム」( |
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e.2005年11月23日H&C研究会( |
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f.2005年12月4日 かながわ子育てネットワーク( |
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g.2005年12月10日NPO法人くすくす( |
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h.2006年1月22日アートフォーラムあざみ野( |
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i.2006年1月30日アートフォーラムあざみ野( |
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j.2006年2月11日アートフォーラムあざみ野( |
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@子育て体験の共有化
●子育ての悩みや苦楽が共感できた。(c)
●共感という言葉のもつ重要性を改めて考えた。育児には、たくさんのマニュアル本があるが、本当にほしいのは、共感し、共に考えてくれるひとだと気付いた。(d)
●育児不安を抱えているのは、自分だけではないとわかって、ホッとした。自分の立場だけではなく、相手の第三者の立場で見ることが必要だと思った。(g)
●孤立した中での育児なので、一人ひとりの気持ちを表現、共感していくという機会は、とても大切だと思った。(f)
●誰もが、同じような悩みや不安を抱えて、子育てをしているのだと思った。悩んだときは、人に話をすると気持ちが整理できるのだと改めて思った。(h)
●皆、同じ悩みを抱えていることがわかった。母親の立場に立って気持ちを理解できて有意義だった。(h)
●子育て中の親にとって、このような共有してもらえる空間があるのは、本当に幸せなことだと思う。(h)
A自己肯定感をもった自分らしい子育てへ
●今までの私は、終わったことを「後悔」しないまでも「反省」していたが、今の私で良いのだと思えた。また、母親として、本当に私がこの子の母親でいいのか、と不安になり、自信を失っていたが、この子の母親でいいのだと思え、気持ちがすっきりした。(b)
●自分は、このままで十分なのだと思うことが大切だと実感できた。自分ができていることに注目して、それを評価していくことは、日常のなかで、大事だと思った。(b)
●助けてもらえないことに不満を抱くのではなく、自分が上手に発信していくのが、家庭生活をスムーズにする鍵だと気付いた。(b)
●子どもに自分の大変さをわかってもらおうとしていたが、こちらが子どもをわかろうとしてなかったことに気付いた。(b)
●できなかったところを反省しすぎない、というプラス思考を子育てだけではなく、生活全般に役立てていきたい。(c)
●新しい自分を再発見し、そのままの自分でOKだという肯定感を得た。(c)
●親が私を育ててくれた時の気持ちに触れ、親とわが子への感謝の気持ちをもてたことが良かった。(c)
●その場で答えは出でない。でも、そこから次のステップに立とうとする勇気を与えてくる。自分の心の声を具体的に見ることで、そのことが可能になると思った。(d)
●肩の力を抜いて、子どもたちを温かく包んであげようと思った。「時には、守れないこともあるさ。」と大らかに構えて、子育てをしていきたい。(d)
●自分のちょっとした言葉、子どもに対する態度を振り返ってみて、改めて考え直す良い機会になった。
相手の気持ちを考える、また、自分の気持ちをわかってもらうことの大切さを感じることができて良かった。(d)
●子どもを頭ごなしに叱るシーンを見て、自分も同じようなことをしていると思い反省した。親から怒られたとき、子どもこんなにも大きく降りかかるような、こわい気持ちがするのだと思った。今まで、なんてかわいそうなことをしていたのだと感じた。怒る前に、今日のシーンを思い出し、一呼吸置いて考えることにしたい。(d)
●初めてストーリーを語った。長女の発した一言で、日ごろなんとなく感じていた、育て方の不安が露呈し、あわてたが、子どもの心にできるだけ添うように気をつけていきたいと思う。演じてくださって、長女の心が少しわかった。心をやわらかく、やわらかくできたらと思う。あまりがんばり過ぎず、肩の力を抜こうと思えた。(e)
●頭でわかっていることも、他人に聞いてもらって、客観的に見ることで笑えた。また、子どもとの時間を楽しんでいけそうだ。(g)
●周囲や大切なものが見えなくなっていたが、自分の状況、気持ちを第三者的に見ることができて、よかった。もう少し、冷静になって子育てができそう。(g)
●普段、なかなか物事を客観的に見ることができないので、自分の気持ちを第三者の目で見ることができて、とても良かった。(g)
●私の中にあるテーマも浮き上がってくる時間だった。丁寧な時間がすばらしい。親の気持ちを表現することで、子どもに寄り添える心を保てるのではと思う。(h)
●「いつまでも自分を責める必要はない。」と後から、たくさんの思いが湧いてきて、癒された。(h)
●子どもの頃の自分の気持ちを思いだすことができた。子どもの立場に立って考えなければと、反省した。(h)
●子育てとは、こどもたちの目線で、物をみつめること、考えることが大切であり、また、それがもっとも大変なことであると再認識した。(h)
●子どもの年齢は、様々だけど、親の思いは、皆一緒なのだと感じた。親でいるのもなかなか良いものだと思った。(j)
Bグループの一体感、子育て仲間のネットワーク化
●すばらしい仲間たちといたことをうれしく思った。(b)
●つながることができるのは、人間ならではのこと。素晴らしい能力を皆のために、そして自分のために。(c)
●マミーズのメンバーとして活動してきた中で、一番、一体感が持てたように思う。発表を終えた後のみんなのすがすがしい顔も今までで一番だった。人を受け入れることの大切さを学んだ。(c)
●一緒に過ごした仲間たちが、さらに信頼できる素晴らしい仲間となった。(c)
●ワークショップに参加することで、仲間とより深くつながれた。(c)
●感動した。お話をされた方も、聞いた私たちも同じひとつの気持ちになったと思う。子育ては、大変だなあと、改めて親に感謝した。(h)
●ゲームをしながら、みんなと打ち解けあい、とても楽しい時間を過ごせた。(j)
Cひとりの「個」として存在する
●それぞれの瞬間で、自分は主人公なのだと思った。自己表現を素直にできる人になりたいと思った。(a)
●どのような状況であっても自分を見失わないでいたいと思った。何より、自分が楽しみたい。人生一度きりだから。(a)
●今まで、心にとめておこうとしてきたことを見つめ直す機会だった。様々なことがあって、今の自分がある。様々な人と関わって、今の自分がある。と改めて感じた。子育ての仲間が、ますます「進化」していくと思うと、素敵だし、頼もしい。(b)
●自分の中の新しい可能性に気付いた。少し自信がもてた。(b)
●母であること、妻であること、家のことを忘れ、自分を考え、自分のための時間に浸れて良かった。毎日の生活が慌しく、家事の繰り返し。物を考えることはない。子どもの話も「はいはい」と聞いているような、聞いていないような生活。この時間は、本当に人の話をじっくりと、集中して聞いた。走っている日々の中で、立ち止まれた。(b)
●自分のための時間、しかも特別で、ステキな時間を持てて良かった。これまでやったことは、それで意味があり、価値のあること、という考え方が、子育て観に加わった。とても楽しい時間で、こんなに楽しくていいの?と不安になったくらい、ホッとできる空間だった。「しっかりと」、「きちんと」、「こうあるべき」という気持ちで可能性や大きな気持ちをつぶしている自分に気がついた。(b)
●自分ひとりのための時間を集中して持てて、自分を見直せた。自分の力も再発見できた。(b)
●自分の土台になった生い立ち、母をいかに思っていたかが、はっきり見えた。このことで子どもに対して、向き合えることにつながると思う。(b)
●自分自身でいられる時間になって良かった。自分の心を見つめられた。マイナスを考えないで良いという、理念がこれからの生活に役立つ。(b)
●子どもだけではなく、私にも可能性があるのだと実感できた。「私なんて」とあきらめてしまうことが、日常になってしまった今、自分自身のことを考え、大事にできる貴重な体験だった。時間がかかるかもしれないが、自分がみつけたものを育てていきたい。(c)
●子どもと離れて、自分でいられる時間を持てた。(c)
●自分のために時間を使うことに罪悪感をもっていたが、思い切って参加してみて、自分自身と家族に大きな効果があることを実感した。家族に対しての感謝の気持ちと愛情を再確認した。(c)
●「演じることが楽しい。」という自分自身の新しい可能性に気付いた。(c)
●気分転換でき、リラックスしたひとりの時間を過ごせた。(c)
●ワークショップに参加することで、自分の存在も確認でき、肯定できた。(c)
●子どもを叱るシーンに涙が出た。私もそんな経験がたくさんある。今は「あのときは、悪かったね。」と言葉にし、子どもたちと良い関係になった。様々なことを乗り越えてきた、自分を改めて思い、現在に感謝したい。(d)
●表現して良いのだという安心感と自分の中で見たくないという無意識の本心を見るのがこわかった。表現することに慣れていない自分、さられ出せない自分に気付いた。いろんな理由でそうなっている時分を見つけたとき、とても心が揺さぶられた。(g)
●母親という立場を離れて、ひとりの人間として感じることができて良かった。(g)
●子どもから離れて、自己表現できてすっきりした。(g)
●ストーリーをみて、親への感謝の気持ちを思いださせてくれた。親、友人、夫、子どももいろんな人に支えられて自分は生きているのだと思った。(j)
B.効果測定による検証
@子育て体験の共有化
A自己肯定感をもった自分らしい子育てへ(Cひとりの「個」として存在する)
Bグループの一体感、子育て仲間のネットワーク化
の効果を仮定し、7月、子育て支援公演終演後に数値によるアンケートを落合良仁氏の協力を得て、実施した(添付資料「子育て支援公演に関するアンケート」参照)。
サンプル数が11と少なく実証が難しいが、参考までに掲載する。補足として、子育て支援公演に参加する動機、目的も上記感想より抽出し設問したが有効回答が得られず、集計できなかった。
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◎実施日:7月8日(土) 「ママやパパのための子育て支援公演」終演後 |
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(公演内容の詳細は、添付資料ケーススタディ参照) |
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◎回答者: 30歳〜39歳までの子ども(0歳〜8歳)を持つ母親11人 |
◎設問
@語られたことについて、共感されましたか?
<はい 10人 90.9% いいえ 1人 9.1%>
A-1.ご自身の中で、新たな気付き、変化はありましたか?
<はい 9人 81.8% いいえ 2人 18.2%>
A-2.「はい」の場合、どのような新たな気付き、変化がありましたか?
・子育て中、周囲の人とのことで、嫌な思いをしたことがあるが、飛行機の話の方のように、相手も後になってバツの悪い思いをしたり、後悔したりしているのだと思った。対話があれば、嫌な思いをすることも減るのかもしれない。
・日常の出来事を振り返ることが、ほとんどなかったので、過去のことであっても、心に強く残っていることは、思い出し客観的に観ることが必要だと気付いた。
・子育てをしていると、いっぱい、いっぱいになり、自分のことしか見られない。即興劇で再現することで、第三者的な客観的な視点で振り返ることができ、良いと思う。
・子連れでも良いと言ってくれる方が、こんなにいるのだと意外な気持ち。もう少し勇気をだして3人の子どもを連れて、出掛けてみようと思った。
・これからは、いろいろな人の気持ちや立場に立てるかもしれないと思った。
・思っても言えないこと、思うことも良くないかな、ということ、(今回の話の中では、電車に乗るとき、ホームに子どもを置いてきてしまったことに対して、父親を責める気持ち)を表現してくれて、スッとした。
B参加者との一体感は、ありましたか?
<はい 10人 90.9% いいえ 1人 9.1%>
このように、8、9割の母親が、効果があったと回答している。
また、前述アンケートの「育児には、たくさんのマニュアル本があるが、本当にほしいのは、共感し、共に考えてくれるひとだと気付いた」、「育児不安を抱えているのは、自分だけではないとわかって、ホッとした」、「今の私で良いのだと思えた。母親として、本当に私がこの子の母親でいいのか、と不安になり自信を失っていたが、この子の母親でいいのだと思え気持ちがすっきりした」、「自分は、このままで十分なのだと思うことが大切だと実感できた」、「信頼できる素晴らしい仲間となった」、「自分のために時間を使うことに罪悪感をもっていたが、思い切って参加してみて、自分自身と家族に大きな効果があることを実感した」など母親たちの反応からも4つの効果を十分に確信できる。
6.これからの課題
今後、プレイバックシアターを用いて、社会に適した、より良い子育て支援を行っていく際に、2つのテーマが考えられる。
はじめに、より多くの支援者(父親含む)が、母親の現在置かれている立場になって、支援を行うことができるようにサポートしていくことである。母親が「子育てはツライ」、「ひとりの時間がほしい」、「子育ては楽しい」、と言っても、その言葉の具体性は、なかなか伝わらない。支援者が、母親が感じていることを頭で理解するのではなく、体感することである。
そのために、支援者側へアプローチをしていき、公演やワークショップを通して、「母親、子どもの心に添う支援」がどのようなものなのか、支援者が感じられるよう機会を作る。さらには、支援者、母親がお互いに、コミュニケーションを図り、それぞれの立場を理解していけるような場を提供する。
次に、母親側の現状として、乳幼児を抱え、家に閉じこもりがちなことがある。公演後アンケートのコメントに「子連れでも良いと言ってくれる方が、こんなにいるのだと意外な気持ち。もう少し勇気をだして3人の子どもを連れて、出掛けてみようと思った」とある。家にこもりがちで、子育てをしている人にプレイバックシアターへ「行ってみようかな」と思ってもらい、実際に足を運んでもらう、そのためのアプローチやすべきことを、さらに考えていくことが次のステップである。
アンケートに、「親でいるのも、なかなかいいものだ」というコメントがあった。ひとりでも多くの人がそう思えるように、「子どもっていいよね」と心から思い、子育てしていけるように、支援することが必要である。
プレイバックシアターを通して、母親と子どもが自律した関係を築き、母と子、家族が、それぞれ豊かな人生を歩んでいけるよう願っている。
おわりに
実際に子育てを体験して、「子育てはえらく大変なことだ」、「こんな大変なこと、もう二度と嫌」と思った。このような辛いことを次に母親になる人が同じように体験するのは、良くない、なんとかできないか、、、と思ったことが、プレイバックシアターを用いて子育て支援をするきっかけとなった。
最初は、世の中の母親のために、そんなに大層なことをしているとは思っていなかったが、今、改めて、論文を執筆し、アンケートを読み直し、各方面より助成金を得ている事実を客観視してみて、子育てをする母親、当事者である私がしていることの重要性、その価値あることに気が付いた。
同時に、この論文を完成させるために、本を読み、子育て支援に関わる人から話しを聞き、子育てに対する、根の深い社会的問題、世の中の意識を認識したことも、今後に向けて、大きな収穫となった。
「家族を犠牲にしているのでは」と、ふと罪悪感がよぎることもあるが、今、私が社会のために貢献することは、決して間違ってはいないということを改めて確信し、納得できた。何よりも私自身が、プレイバックシアターとともに、子育てをしてきて「子どもっていいな」、「親っていいかも」と心から思えるようになった。
最後に、日ごろ、私の活動を影、日なたとサポートしてくれている、家族に心から感謝したい。
ありがとう!!
<参考文献>
杉山千佳 『子育て支援でシャカイが変わる』 日本評論社 2005年
大日向雅美 『「子育て支援が親をダメにする」なんて言わせない』 岩波書店 2005年
柏木恵子 『子育て支援を考える〜変わる家族の時代に』 岩波ブックレット 2005年
伊志嶺美津子・新澤誠治『21世紀の子育て支援・家庭支援〜子育てを支える保育をめざして〜』
フレーベル館2003年
『AERA 2006年3月6日号』 朝日新聞社
毛利子来・山田真編集『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』 ジャパンマシニスト 2002年 No.34
宗像佳代 『プレイバックシアター入門』 明石書店 2006年